マリの長い無文字文化の中で歴史を語り継ぎ、政府の広告塔として、また人々を鼓舞する役割を担って来たグリオ。今もその血脈は継承され、家族の歴史を語り、ある者は世界に発信するミュージシャンとして活躍しています。 (グリオはフランス語です。バンバンラ語ではジェリ、日本語では口承伝承人、語り部でしょうか)
マリ共和国では、仮面を用いた祭礼行事が多くありますが、家庭や町内でもことあるごとにパーティが開かれます。家庭内のパーティーとしては、子供が生まれた時や学校の進級祝い、成人式、婚約式、昇進式、お葬式などがありますし、町内では年中行事や新たな機械の導入、収穫、政治集会などでも人が集まり、道端や広場で音楽を奏でダンスが行われます。
これらの行事やパーティーで欠かせないのが、グリオと呼ばれている世襲制の音楽家達です。文字のなかった時代(マリ帝国時代以降、イスラム教と共にアラビア語は入ってきましたし、多くのイスラムの学校があった事を考えると、文字によって書き記す事をしなかった、とも言えます)グリオは口承伝承人として、またコラ、ンゴニ、バラフォンなどの楽器を演奏する音楽家として、戦争や民族の移動、お抱えの主人である一族の歴史を語り継いできました。同時に彼らの即興の音楽や詩はニュースを伝える役割も担い、社会的に大きな影響力を持っていました。
グリオは世襲制の職業的階層を形成し、グリオでない人が歌うことは恥ずかしい事とされています。今も学校の教科に音楽の時間はありませんし、歌うとすれば女の子達が手拍子で踊るお遊びの時ぐらいでしょうか。今日、これらの伝統は少しずつ破壊?されつつあります。国民的歌手サリフ・ケイタがグリオ出身ではないにも関わらず、世界的歌手として認められた事や、多くのアフリカンミュージシャンが活躍する現状から、伝統的な習慣を打ち破り、グリオでない若者が未来のビッグスターを夢見て、また現金収入の道として楽器を演奏することも都市部に於いては珍しくありません。